前回は、グローバル本社機能として整備すべき事項について述べた。その前の回でも述べたが、海外拠点の経営がうまくいくか否かは出向者に起因することがほとんどだ。それだけに、定期的な監査や、管理帳票の見直しで問題を早期に発見して対策が打てるようにすることは重要なことだが、やはり、そのような問題を起こさず、経営の舵取りをするためには、出向者人材を適切に育成することが基本と言える。併せて、海外拠点がどんどん拡大する中で、出向させられる人がいないと悩まれている企業も多い。そういう意味では、いかに短時間で出向者人材を育成するかも課題と言える。今回からは、出向者人材をいかに育成するかということについて述べる。
◆計画的な育成とは言うものの実質的には無理
海外出向すると、担当する分野が極めて広くなると共に、役職も日本での役職から1~2階級上になることが大半だ。当然、専門分野だけを知っていれば良いということにはならない。そういう意味では、計画的な育成を図るには、色々な部門の経験を積むことが必要であり、そのような育成ができればそれに越したことは無い。実際、将来を担うであろう人材を明確にして、ローテーション計画を立てられている企業もある。しかし、この方法は、ものすごく時間もかかると共に、実現できていないのが実態だ。筆者のご支援先でも、出向候補者人材のリストがあり、その育成計画が記載された計画書はあっても、各部門のニーズや、その人が抜けると業務に支障をきたすという理由で、結局は異動できないままになっているということが大半である。計画的なローテーションは、大抵、絵に描いた餅になっていることが多いということだ。
また、それ以上に多いのは、海外での拠点新設が急に前倒しになったり、急に出てきたりしているケースだ。これは、客先の要請によるということもあるし、そこに事業機会があると判断すれば、逸早く進出した方が得策という経営判断が働く場合も多い。そうなると、計画的な出向者の育成どころではなく、今すぐ出向させられる人材は誰かという話しが突然出てくる。
すなわち、計画的な育成が図れるのであれば、それに越したことは無いのだが、実質的には無理というのが現実の姿ではないだろうかということだ。
◆出向候補者の選定・・・先ずは資質があるか否か
それでは、どうするとよいだろうか。出向候補者の選定にあたって、よくあるのは、出向先での仕事ができる人(できそうな人)ということで選定するケースが多い。しかし、これだけで選ぶと失敗することがある。一番大切なことは、海外出向者に求められる資質を備えているかということだ。実は、国内で優秀だから、海外でもできるとはならないケースが多いからだ。筆者の経験した事例では、優秀な経理責任者にもかかわらず、海外での生活が不安で、うつ病になってしまい、赴任直前に取り止めることにしたという例もある。また、出向したものの、その国の文化や風土が受け入れられず、いつ帰任できるだろうかということばかり考えて、ほとんど仕事ができていないというケースもある。
そういう意味では、日本と異なる文化を受け入れ、また、多少のことでは動じない強いメンタリティを持っているということが海外出向者に求められる必要条件と言える。特に、赴任先が、日本と比較すると劣悪な環境にあるというような場合は、なおさらである。従って、選定にあたっては、仕事の内容という前に、先ずはこのような資質を持っている人かどうかで選ぶ必要があるということだ。
◆短時間で育成を図るには・・・先ずは何を事前に勉強する必要があるかを明確に
さて、資質があるという人の中で、出向先の地位や仕事内容を踏まえて、それに対応できる人を選定することになる。その場合、出向者の地位や仕事内容から、出向者に求められる要件を明確にしておくと良い。その中で必要となる知識について、出向候補者が修得していないものについては、事前にそれを修得する場を用意することが必要となる。一般的には、一つには、経営責任者や、経営幹部として出向するケースが多いので、経営の基本とマネージメント、また、海外では日本の常識は通用しないので、異文化への理解と対応等については、最低でも理解しておく必要がある。(これについての詳細は、次回以降、述べることにする。)
もう一つは、その事業を進める上での専門知識だ。例えば、品質や生産技術といった、独自の規格や専門知識が必要という場合は、それらを修得しておく必要がある。これらは、大抵は、それを専門とする部門に行って、現物や帳票、マニュアル等を見ながら、ポイントを学ぶ必要がある。いずれにしても、出向者に求められる能力や知識要件が整理されていれば、何を事前に修得しておく必要があるかはわかり、それを短時間で研修できるようにするということだ。
◆相談できる関係を築く
ところで、そうは言っても、少しくらい研修しても、専門知識については、すぐに自分のものにするというのは難しい。研修で大切なことは、出向して事業推進をする際に、必要となる知識の引き出しを用意しておくということだ。すなわち、すべての分野の専門家になる必要はなく、その分野については、誰に聞けばよいかがわかっていれば、仕事はできるということなのだ。そういう意味では、研修にあたっては、このことは、誰に聞くとよいかという相談役を明確にして、気軽に相談できるような関係を築けるように配慮することが大切ということだ。そういうことであれば、短時間で、必要となる知識の引き出しが準備でき、海外に出向しても、何とか仕事はできるということになる。
次回からは、経営幹部として、出向する人には、是非、理解しておいていただきたい事項について述べることにする。