働き方改革の本質(1)~人が成長しながら生き生きと働くために~
〇会社とは?働くこととは?
「働き方改革関連法案」が2018年4月6日に国会に提出され、6月29日参議院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立しましたが、ここでは、「働き方改革関連法案」のような法律や制度のことではなく、「会社とは?」、「働くこととは?」という働き方改革の本質的部分を、実際の現場の事例を含めて何回かに分けてご紹介していきます。
〇各社の現状
企業幹部からの日々のご相談事で圧倒的に多いのは、現場の主体性がないこと、いわゆる“ことなかれ社員”の増加です。ひとつには、欧米から入ってきた性悪説のいろんな考え方(規格、法令、制度)が、現場に「余計なことはやめよう」「積極的に動いても損をする」というような考えを植えつけてしまったようです。その上に、基本的には皆豊かなので「この給料でいいや」「出世しなくてもいいや」「このままが一番」など、いっそう主体性を削ぐ結果になっています。
元気で明るく、言われたことはしっかりやるが、「もっとこうしたい」「これをやるべき」など積極的な意見が出てこない。これでは強い組織にはならない。どうしたらチャレンジする人を作れるか?というような悩みです。
各社の「働き方改革」の活動も本社主導型で、現場の状況も細かに把握しないまま「残業を減らせ」「女性を活用しろ」など現場主体や状況を無視した活動になっているところがほとんどのようです。現場の反応は「この忙しいのに勘弁してくれよ」となっています。
〇現場が生き生きしている会社に悪い会社はない
現場に主体性があって生き生きと働いている会社で業績の悪い会社に出会ったことはありません。
「私たちの幸せは昨日の自分より成長することです」これは私が何百社も会社を訪問して、一番現場が生き生きとしていた会社の玄関に掲示してあった大きな横看板の標語です。会社の命令や、上司の指示で言われたままに仕事をするより、自分の成長を目的に仕事をしたほうが生産性はあがるし、仕事自体も楽しいに違いありません。
不平不満を持つ人は幸せからはじき返されます。与えられた環境でひたすら努力する人に幸せは訪れます。人は主体的になればなるほど前向きな努力ができ、幸せを呼び寄せることができるのです。働き方改革も現場の主体性が中心でないと成り立ちません。
〇自分のチャレンジする姿を部下に見せて育てたい
現場の主体性ということで劇的変化があった事例をご紹介します。静岡の化学会社の事例です。
この会社は外資系でしたが、日本の大手化学会社に買収されました。親会社から出向してきた部長に「買収されて社員のモチベーションが落ちている、定量的成果にこだわらないので一人ひとりをちゃんと見て元気にしてやってほしい」というオーダーをいただきました。
各職場のリーダーを集め、職場の問題点と将来のあるべき姿(夢)をまとめてもらい、コンサルタントがコーチングをしました。この中に、明らかに服装も言葉遣いも態度も違うリーダーがいて、彼曰く「私はプロサーファーになりたかったんです。でも家族ができ、会社勤めをして、今は部下もできたので、自分のチャレンジする姿を部下に見せて育てたい」とのこと。
彼は、ある液剤を10時間攪拌する職場だったのですが、なぜ10時間なのかという質問には誰も答えられないことが疑問だったので、この機会に徹底的に解明しようと思ったそうです。彼は自分の職場で扱う液剤を研究所に持ち込み調べてもらったり、OBを訪ねて昔のオペレーションの仕方を教えてもらったり、徹底した行動を自ら取ったのです。分かったのは、「物性としては5時間で攪拌できる」「事故があるたびに理由もなく時間を伸ばしていた」ということでした。結果的に10時間の攪拌時間は6時間になったのです。飛躍的な生産性向上です。
他の職場のリーダーも同じように自分でテーマを選び自分で考えて行動して成果を出していました。その会社は今でもグループ会社の中でも現場に主体性のあるよい会社との評価があります。
〇「現場の強さ」が日本型経営の強さ
今でも、現場の人間が自ら考え、自ら動く、この「現場の強さ」が日本型経営の強さの大きな要因になるはずです。狩猟民族の欧米の考え方よりも農耕民族の日本では、現場主体の性善説でのマネジメントが合うのではないでしょか。また時代も多様化に対応する必要があり、一人ひとりの個性と可能性を発揮させるために主体的に考え行動する働き方がマッチしているはずです。
次回は「組織ビジョンと個人の夢」についてです。
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